「文化財修理の最先端」展 京都国立博物館
「文化財修理の最先端」展
2020年12月19日(土)~2021年1月31日(日)
京都国立博物館 平成知新館(2F、1F-1・3~5)
京都国立博物館の敷地内に併設されている文化財保存修理所は、指定文化財を安
全に修理することを目的とし、1980 年 7 月に設置されました。公営修復施設としては
日本で初めてのものであり、2020 年に開所四十周年を迎えました。これを記念し、近
年修復された文化財のなかでも、特に注目される作品を厳選して展示されています。
日本の文化財は大半が脆弱な有機物を素材としており、約 100 年に一度は定期的な
修理を行わなければなりません。異なる素材を複合させながら発達した日本の修復
技術は、古い作品を大切にし、後世へ伝えようとする人々の心と日本の自然が生み
出した、人文遺産そのものです。
この特別企画では、世代を超えて受け継がれてきた文化財を、文化財修理という切り
口からご紹介いたします。
Ⅰ 表具の価値ー文化財としての表装ー
西洋で画家が絵に相応しい額縁を選ぶように、日本では表装に際して絵に相応しい染織品を取り合わせます。通常、この染織品は修理の際に交換されますが、重要な歴史性を持つ場合は保存して再利用します。ここでは、表装に焦点をあてて紹介します。
Ⅱ 修理がもたらした奇跡ー修復で得られた発見ー
文化財の修理では、仏像の胎内や絵の裏など普段見ることができない部分をみることができます。その際、制作の秘密を示すような発見が得られることもあります。近年の修理によって得られた、画期的な新知見を紹介します。
Ⅲ 最新の修復成果ーベストな修理を目指してー
文化財の修理は、各作品の特性に応じてもっとも適当と考えられる修理方針が、所蔵者、修理技術者、研究者の協議を経て決定されます。染織分野では、作品ごとにまったく異なる修理方法が採用される場合も少なくありません。近年の修理の中から、特に注目すべき成果を紹介します。
Ⅳ 彫刻の修理
彫刻の修理は、接合部の緩み等に起因する構造的な問題を解消するための本格的な解体修理と、彩色を主体とした表面層の修理とに大別されます。多くが信仰の対象である彫刻作品は、信仰上の配慮が必要な面もあります。ここでは、書画とは異なる彫刻の修理について紹介します。
Ⅴ 修理 いまむかしー過去から未来へー
書画の修理は伝統的な技術を基本としていますが、文化財修理が専門化するに伴い、その内容は進化を続けています。過去の技術を基本としながらも、科学的観点から見直しが続けられています。近代以前の過去の修理を振り返りながら、現在の修理と比較します。
「文化財修理の最先端」の展示風景
石燈籠図屏風 伊藤若冲筆 京都国立博物館蔵 左右隻(「文化財修理の最先端」にて展示
伊藤若冲筆「石燈籠図屏風」
(京都国立博物館蔵)の修理に伴う知見
○ 伊藤若冲筆「石燈籠図屏風」について
・いくつもの石燈籠が立ち並ぶ様子を描くという特異な主題で、遠景にはなだらかに広がる山並みも見えます。
・石燈籠や石柵は水墨による無数の点描で表されており、その点描の濃淡や粗密を変化させることで、石のざらついた質感や立体感をも感じさせる表現となっています。
・花鳥画をもっぱらとした伊藤若冲(1716~1800)には珍しい風景表現で、実景に基づく可能性もあるが、はっきりとしたことはわかりません。
・制作時期は、印章の状態から安永元年~寛政六年(1772~94)頃に絞られます。さらに寛政元年(1789)頃の作品に類似の点描が用いられていることなど様式的観点から、その後半頃が想定できます。幅を広く取ると、天明三年~寛政六年(1783~94)。若冲の60歳代末~70歳代末頃に当たります。
○ 修理の概要
・修理前は画面下部を中心に虫損が著しく、また経年劣化により屏風の構造が不安定になっていました。
・平成29~30年度に全面解体修理を行い、本紙以外の下地・裏打紙・表具裂・襲木などをすべて新調しました。ただし、飾金具は元使いとし、欠失箇所については復元したものを用いました。表具裂・襲木は修理前のものに近い材料・色調を踏襲し、視覚的印象が大きく変わることのないように留意されています。なお、襲木の材は屋久杉です。
【左】石燈籠図屏風 旧襲木墨書
【右上】石燈籠図屏風 大縁下から見出された墨書・印
【右下】墨書・印が見出されたときの状況
○ 何が発見されたのか
・襲木から墨書が発見されました
右隻第一扇上部および第三扇下部の襲木より墨書が見出されました。
「天明三年 上京黒門通中立売上ル 柴田宇兵衛作」
「天明三年 衣ん中立売上ル 柴田宇兵衛製作」
襲木には別の墨書があったらしく、これを抹消するように表面が削られています。見出された墨書はその上から記されています。
・縁裂の下から墨書が発見されました。
右隻左端、左隻右端のそれぞれ縁裂下の本紙より墨書および印が見出されました。
「生島子石画後々余遇也「若冲居士」(朱文円印)」 ※内容はいずれも同じ
○ 今回の発見から何がわかるか
・襲木の墨書
天明三年(1783)は若冲68歳。柴田宇兵衛は表具師の名前。
修理銘である可能性も否定できませんが、若冲存命中の事であり、作品が修理を要するような状態にあったと考えにくいものです。
→制作年を示す可能性があります。従来想定されている制作時期とも矛盾しません。
・縁地下の墨書
筆跡及び印章から、若冲自筆であることは間違いありません。
墨書の意味するところについては明瞭ではありませんが、「石画」は石燈籠を描いた本作のことを指すと考えられます。したがって、「生島子石画」は本作が生島なる人物の発注によって制作されたことを意味する可能性があります(「子」は敬称)。
「余遇」は「余過」である可能性もありますが、いずれにしてもその意味するところは明らかではありません。
○ 新知見の意義
・いずれの墨書も、制作時期や発注者について明確な事実を示しているとは現時点では言えませんが、今後こうした問題を検討する際の新たな材料となる情報。
・落款印章のほかに、縁裂の下(屏風に仕立てられたのちは見えなくなる)に画家が自ら墨書を記し捺印すること自体きわめて珍しく、ほかに例がない。
→若冲自身にとっても、強い思い入れのある特別な作品だったのではないかと思われます。
休館日 : 月曜日(※2021年1月11日(月・祝)は開館)、2020年12月29日(火)~2021年1月1日(金・祝)、2021年1月12日(火)
開館時間 : 9:30~17:00(入館は16:30まで)
観覧料 : 一般 700円
大学生 350円
※本観覧料で当日の平成知新館の全展示をご覧いただけます。
※大学生の方は学生証をご提示ください。
※高校生以下および満18歳未満、満70歳以上の方は無料です(年齢のわかるものをご提示ください)。
※障害者手帳等(*)をご提示の方とその介護者1名は無料です。
(*) 身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、戦傷病者手帳、被爆者健康手帳
※キャンパスメンバーズは、学生証または教職員証をご提示いただくと無料になります。
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